養分と毒素

死ねないから生きている

アラサーとクレープ

しばらくぶりに、クレープというものを食べた。ショッピングモールのフードコートなんかにある、夕方には中高生の列ができているような店のクレープだ。

なぜそんなことになったかというと、夫と出かけている最中、私が空腹に耐えられなくなったのだ。

私は非常に燃費の悪いタイプだ。朝食のあと、何をするでもなく寝転がってばかりの休日でも、昼にはしっかりお腹がすく。仕事や外出でエネルギーを消耗していれば、空腹までの時間は短くなり、度合いも強くなる。さらに、その状態が続くと、私はめちゃくちゃ機嫌が悪くなるのだ。

以上のことを夫は身をもって知っているので、私が「おなかすいた」と言い出した時点から、彼はそれを早急に解決するための手段を探っていた。

冬の土曜の午後5時、たくさんの人が行き交う大きな駅の前で、すぐ席につけるカフェがあるとは思えなかった。ただ軽食にありつければいいというわけではなく、からっぽの私のお腹をある程度満たす分量の食べ物を提供している、という条件も達成されなくてはならない。

そこで目をつけたのが、新しくオープンしたゲームセンターのフロアに併設されているクレープ店だ。私たちは外出すると、大抵どこかのゲームセンターに立ち寄りUFOキャッチャーなどに興じるので、その情報を把握してはいたけれど、実際に何かを注文したことはなかった。

クレープ店のカウンターは並ぶ人もほとんどおらず、埋まっていたテーブル席も、ちょっと目を離したすきに空いていた。私たちはいそいそと注文を済ませ、荷物を置いて席を確保した。

夫が手渡してくれた私のクレープは、バナナとチーズケーキとカスタードクリームとホイップクリームにキャラメルソースがかかっているという徹底ぶりにもかかわらず、案外軽かった。身体を冷やしたくなくて、アイスクリームが入っていないものを選んだせいかもしれない。

とにかくお腹を落ち着かせたくて、私はそれにかぶりついた。クレープ生地の端のぱりぱりしたところと、斜め切りのバナナと直方体のケーキ、各種クリームとソースが一度に舌の上にのっかってくる。何も考えず(考えられず)、どんどん食べ進める。巻かれた紙をはがすとキャラメルソースがこぼれてきて、残りをあわてて口の中に放りこんだ。

かくして、私の腹と心の平和は守られたのだ。

そのクレープは確かにおいしかった、おいしかったはずなのだが、そう断言するには何かが喉の奥にひっかかる。焦って飲みこむように食べたせいだろうか。ただ、ティーンエイジャーの食べ物って感じだなあ、と思ったことは覚えている。

あれだけの魅力的な要素を、小麦粉の皮で包むことで、一度に一気に味わうことができる。学生のころはそれがとてつもない贅沢に思えたはずなのに、私の食に対する感覚は、いつの間にか変わってしまっていたらしい。単に年齢を重ねて、そのクレープよりもおいしいものをたくさん知ってしまったからというだけでなく、もっと根本的な部分があのころとは違っているような気がする。どこがどんなふうに、と説明するのは難しいけれど。

おいしかった!また絶対食べたい!とは言えないにしても、「悪くはないかな」と思っていることは間違いないので、今度は適度に空腹なときに食べに行ってみようと思う。具が少なくて値段の安いメニュー(シュガーバターとかクリームのみとか)もたくさんあったので。